●漫画・・ 「ハロー張りネズミ」..(2) -1945年夏物語-


「ハロー張りネズミ」は、講談社の青年漫画誌「ヤングマガジン」に、1983年頃から89年頃まで連載が続いた、大長編連作探偵劇画です。探偵劇画といっても、内容はバラエティー性に富んでいて、推理探偵もの、長編サスペンス、オカルト・ホラーもの、コメディータッチのお話、「ええ話やなあ~」と思わず涙が溜まりそうな人情もの、などなどと主人公の私立探偵・張りネズミを中心に、あかつか探偵事務所の仲間たちと繰り広げる、ベースは探偵もの漫画です。それこそ拳銃の銃弾飛び交う、スパイサスペンスものから、親子や家族の人情劇などヒューマンドラマ、吸血鬼伝説にまつわる伝奇ホラータッチの怖いお話、心霊オカルト、最終話頃には徳川埋蔵金伝説を扱ったお話もあります。
真夏の八月と言ったら、日本の国は、6日の広島原爆投下の広島平和記念日、9日の長崎原爆投下の長崎原爆犠牲者慰霊式典、そして太平洋戦争の終戦記念日、全国戦没者追悼式ですね。本来、探偵漫画である「ハロー張りネズミ」の数々のお話の中にも、先の戦争に関したエピソードがあります。「ハロー張りネズミ」全編のもう最終話頃のお話ですけど、主人公・張りネズミが終戦間近の、正に渦中の広島にタイムスリップしてしまうお話ですね。

1988年の大晦日も近いある真冬の日、ハリネズミが勤めるあかつか探偵事務所は、仕事納めの大掃除で職場の片付けをしていた。探偵事務所の一員、グレさんが事務所の電話を取ると、仕事の出張で広島まで来ている張りネズミからだった。張りネズミは、事務所が正月休みに入るので、広島を観光がてらブラブラしてから帰る旨を伝える。電話相手のグレさんは、実は自分は広島の生まれで子供の頃、広島で育ってそれきり広島へは帰ってないので、自分が子供の頃住んでいた広島の天神町の写真を何枚か撮って帰って来てくれ、とハリネズミに頼む。ハリネズミは快く簡単に「了解」と、頼みを聞き入れる。
広島市内を観光で歩く張りネズミ。自前のカメラで、原爆ドームなど何枚かの写真を撮る。やがて夜が来て冷え込んで来たので一杯やろうと、飲み屋を捜す張りネズミ。歓楽街の一軒のスナックへとドアを開ける。スナックの中は何とも古めかしい飾り付けで、張りネズミも「これはまたレトロな店だな」と独りごちる。店内のレトロな意匠が徹底していて驚き、ウイスキーを注文すると昔懐かしいワンショットグラスが出て来る。張りネズミが「暖房が効き過ぎてる」と厚手のジャンバーを脱ぐと、スナックのママも「お客さん、あんた変な人じゃね。そげな冬の格好しとるけん暑いんよ」と客を奇妙がる。張りネズミも何から何まで変なことに気付き、スナックのママにレトロ調のラジオを点けて貰う。

ラジオから流れる放送は、広島上空の敵機の有無を知らせる、中国軍管区情報だった。スナックのドアを開けて外を見ると、鉄砲を肩に旧陸軍の日本兵が行進している。店内に戻った張りネズミがママに今は何年かと尋ねると、ママは「昭和20年」と応える。ここで張りネズミは、自分が広島市街地のとあるスナックのドアを開けたときに、タイムスリップをしてしまったことに気付く。そこへ店に酒類の配達にやって来た中年のオジサンは、グレさんそっくりで名前を小暮という。
張りネズミの探偵仲間の良き相棒で、親友のグレさんそっくりの男が、グレさんの父親に違いないと気付いた張りネズミは、グレさんの父親を追おうと、即刻店を出ようとするが、スナックのママに「飲み逃げ!」と止められる。料金支払いを急かされ、ハリネズミが現代の福沢諭吉の一万円を出して、ママに「ニセ札だ!」と騒がれる。店の外へ出て早くグレさんを追いたい張りネズミはママに掴まえられ、近所の男衆を呼ばれて、「飲み逃げ犯」と袋叩きの目に合い、翌朝目を覚ますと、道路のゴミ捨て場に捨てられていた。

途方に暮れて、タイムスリップしてしまった昭和20年の真夏の広島市内をトボトボと歩く張りネズミ。道行くお婆さんに時間を聞くと、何と1945年の8月5日、午後12時15分だった。広島に原爆投下される、調度20時間前だった。
大勢の市民に、今から20時間後に原爆が投下されて、この街一帯はおろかその周囲遠くまで、壊滅的な焼け野原になることを、信じられないくらいの大勢の人たちが焼け死んでしまうことを教えたいのだが、直接そんな話をしたところで誰も信じてくれないだろうと思い、どうして良いか解らず、ただ焦燥感だけがつのる。
とにかく、現代1988年での自分の親友、グレさんのお父さんに当たる、先程の人を捜そうと、広島市内の町を、酒屋の小暮さんを尋ねて回る。ようやく小暮さん夫婦を探し出すが、今から十数時間後の明日、上空で新型爆弾が爆発して、一帯が壊滅的焼け野原になる、などと言う話は到底信じてもらえず、酒屋主人の小暮さんから、またしても袋叩きの目に合う。優しい奥さんから介抱して貰う張りネズミ。見ると奥さんのお腹が大きい。優しく綺麗な奥さんのお腹の中には、後の探偵業の盟友、グレさんが居るんだと感動的に気付く。

翌朝、張りネズミが目を離した隙に、旦那の小暮さんは爆心地となる、市内紙屋町住友銀行へと行ってしまう。とにかくお腹の大きい奥さんだけはと、張りネズミは傷を負った悪い足で自転車を必死でこいで、後ろに乗せた奥さんだけでも爆心地からは離れさせようと頑張る。で、自転車の後ろに乗る奥さんが途中で、やっぱり主人を見殺しにできない戻ると騒ぎ出す。奥さんを怒鳴り付けてでも、強行に市内を離れる張りネズミ。途中で、奥さんが産気づいてしまった。自転車を止め、近所の人を頼る張りネズミ。
一方、小暮さんご主人は、紙屋町住友銀行に午前八時に着くがまだ開いていないので、玄関前の階段に腰を下ろして開店を待つ。午前8時15分、アメリカの爆撃機B-29、エノラゲイが新型爆弾を広島市上空で投下する。グレさんのお父さん、小暮酒店のご主人は、いわゆるピカドンのピカで消滅し、破壊された住友銀行建物跡の階段跡の、焦げ目の一つとなる。

爆心地からかなり離れた地域まで逃げて来ていた張りネズミと小暮夫人は、田舎の近隣の人たちに聞いて、近くの産婆さんを訪ね、難産になるが奥さんは何とか“グレさん”を産み出す。しかし、破水後6時間も経っての難産で、母体は衰弱してしまった。子供が生まれて一息ついた張りネズミが、産婆さんの田舎民家の便所へ行って、便所を出ようと便所の戸を開けると、豪奢な感じのホテルのロビーへと出た。フロントの男性に訊くと、ここは広島県佐伯郡の安芸グランドホテルの中だと言う。そして日付けは、1988年の12月30日。張りネズミは現代、88年に戻って来た。
東京へと帰る新幹線から、あかつか探偵事務所へ電話を掛け、グレさんに、お母さんはグレさんを生んだ後、どうしたのか?を訊いてみると、グレさんが答えるに「俺を生んで二日後に死んだ」だった。新幹線電話ボックスの中で、張りネズミは泣く。・・・
このお話の舞台は主に真夏の広島ですが、原稿が描かれたというか、エピソード初出は、ヤンマガの冬の号でしょうね。88年の12月発行のヤンマガ初出掲載なんでしょう。

◆[2015-08/04]ハロー張りネズミ..(2)-1945年夏物語-
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