Kenの漫画読み日記。

餅賢次の新旧漫画情報と懐古(郷愁)他雑感

●小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(9)

mochi-kenji

9.


 「大丈夫だ。一人も死人は出ていない」


 「そうか。あの首領格のガキはどうだ?」


 「生きてるよ。多分、だいたい半分くらいは病院で入院治療だろう。あの首領格の子供も、頭から落ちて地面で頭を打ってるから入院だろう」


 「あのガキは、半身不随で寝たきりぐらいにしても良かったカモな」


 「いや。あいつらはもう多分、苛めはやらないだろう。何しろ半数は当分入院だし。どうせ元々、一人じゃ何もできないような連中だ」


 「あの女の子は相当ビビってたな。可哀想なことをした」


 「和也の姉ちゃんか。いや、あれくらい脅しといて良かったよ。和也は約束を守って喋らないが、姉ちゃんの方は喋りそうだからな。可哀想だったが、あのくらい恐がらせとかないと、母親とか友達とか親しい人間に話しそうだったからな」


 「そうか。でも、あの苛められっ子は当分は安心して学校に通えるな。苛めのガンの首領格のガキも入院だろう。どうせああいうガキは性根は直らんだろうが、病院から出て来たらまたやるかな?」


 「多分もう、あの子には手を出さんと思いたいが、性根が腐ってたら解らんな。その時はまた懲らしめるさ」


 「ああ。その時は今度は、一生半身不随くらいのダメージを負わせてやるか。いっそ殺してしまっても良いけどな」


 「またそれを言う。駄目だよ、簡単に命を取ってしまったら。いくらあんな奴らでもこの時代では人権とかあるんだからさ」


 「へ。そんなもんかな‥」


 市立中学本館棟、三階建てビルの屋上に、二匹の犬は居た。一匹は全身白くてかなり大きく、見た目秋田犬種の大型犬にでも見え、白い尾もちゃんと日本犬らしく巻いている。もう一方の犬は、白い日本犬に比べればかなり小型に見え、焦げ茶色の体毛に耳は若干垂れぎみで、茶色い緒は長くだらんと垂れている。見た目は洋犬の雑種のようだ。屋上の周りは高いフェンスが張ってあるが、金網越しに周囲の風景は、地上は真下からかなり遠くまで一面眺望できる。屋上隅に並んだ二匹の犬は地上を見下ろしていた。


 「おい、現場に先生が来たみたいだな。慌てているぞ」


 「そろそろ騒ぎになるな。多分、警察を呼ぶだろう。救急車も来る。そろそろ、おいとまするかな」


 「そうだな。今の内に引き上げよう」


 二匹の犬は同時に、屋上のコンクリート面を蹴ると、高く跳んで、有に二メートルは高さのあるフェンス塀を軽々と飛び越えた。と、思うと晴れ渡った空の中、落下せずにふうっと空中で、まるで青空に溶け込むように、消えてしまった。



          *                   *



 午後の授業は中止になり、全生徒が帰宅するように学校側から命じられた。勿論、放課後の部活動もしてはいけないということで、生徒は全員寄り道などせずに真っ直ぐに帰宅するようにとの達示だった。また帰宅路が同じ方向の者同士は極力、集団下校するようにと担任の話だった。


 昼休み後の五時限目冒頭から教室を出て行った、国語課目担当のクラス担任は、30分程経ってからクラスに戻って来て、全員一斉帰宅を申し渡し、理由を聞いて来たり説明を要望する生徒たちを有無を言わさず、クラブ活動の中止や教室等の掃除もしなくてよく、居残り厳禁で急いで帰り仕度をして即帰宅するよう、強制的な口ぶりで言い放って担任は、忙しげにまた教室を出て行った。その間の担任の態度は、緊張感に満ち満ちてただならぬ様子だった。


 最初、血相を変えた副担任が呼びに来て担任が教室を開けて、クラス全体がざわつき始めてから20分程度経ってから、救急車やパトカーのサイレンが次々と聞こえて来た。教室内はますます騒がしくなり生徒たちは完全に落ち着きを逸し、中には様子を探りに教室から出て行く生徒も何人か居た。そうした後、直ぐに担任が戻って来てその口から、命令調の強制的な全員帰宅の指示が出たのだ。


 吉川愛子は、まるで逃げ出すように一人急いで校舎を出た。校門へ向かう途中、何台かパトカーが見え、学校裏手の方角に向かって並んでいたので、愛子は多分、あの先に救急車が停まっているのだろうと、教師たちの慌てぶりや学校全体の異様な状態が、愛子が目撃したあの現場が原因に間違いないと確信した。今日はもう早く家に帰って、自分の部屋に閉じ籠りたい、そういう気分だった。


 愛子は、学校内からの生徒たちがいちどきに大挙して下校する、その、言わば第一団の先頭グループに居るようだった。後ろを振り返ると、別の学年や他のクラスの生徒たちが大勢、校門へと向かってぞろぞろ歩いて来ていた。愛子のクラスの子は見当たらない。自分がいち早く教室から出て、急ぎ足で階段を降り、廊下を小走りで駆けて校舎を出て来たのだ。


 ぞろぞろと歩き行く先頭集団の中でも、急ぎ足で進み、トップくらいの前で校門を抜けようとした愛子に、後方から 「吉川!」 と、愛子の名前を呼ぶ男子の声が聞こえた。


 校門を出て立ち止まり振り返ると、後ろの集団を掻き分けて片手を挙げ、一人の男子生徒が駆け寄って来る。愛子は数人の生徒たちに追い抜かれながら、仕方なく、男子が近付くのを待った。学生服のボタンを上半分外して襟元を開け、にきび面で中途半端に髪を伸ばした、中学生男子としては小柄な、武田虎太が愛子の傍まで来ると、そのにきび面でニッと笑顔を作った。


 愛子はこの武田虎太と、中学一年生時は同じクラスメートで比較的仲が良い方だったが、今は愛子は二年四組であり、武田虎太は一組だ。虎太なんていう勇ましい名前だが、一年生時入部していた剣道部は二年生になると辞めてしまい、今は帰宅部だ。性格は陽気だが少々お調子者で、本質は気が小さく臆病なようにも見える。前に立つと、愛子よりも若干上背がある。


 「早いんだな、吉川」


 「うん、ちょっと‥」


 「ピー子と真央が探してたぜ」


 「あ、そうなんだ。私、今日家に用事があるんだ。お母さん待ってるから」


 愛子は嘘をついた。本当の理由は一刻も早く、学校を離れたいのだ。武田虎太は、急ぎ足の愛子に着いて来た。一人で早く家に帰りたい愛子にはとても迷惑だったが、虎太に離れて歩けとも言えず、仕方なく愛想笑いをして自分はひたすら急いだ。


 息が荒くなりながらも、無理をして愛子に着いて早足で並んで歩く武田虎太は、 「なあおい、今日のこの全校早退さあ、どうしてか知ってるか?」 と、息を切らしながらも話し掛けて来る。


 愛子としては相手にしたくなかったが、無視するのも不自然なので仕様がなく、「知らない」 とだけ答えた。本当は、その理由は、虎太よりもよく解っているつもりだ。


 「おい、吉川。そんなに急いで帰らなきゃいけないのかよ」


 ハアハアと息を切らせながら、虎太が半ば怒ったように言って来る。バスケット部員で毎日激しい運動をやっている、愛子の方がスタミナがあり、涼しい顔で早足で歩き続けている。帰宅部の虎太には、愛子の早足に着いて並んで歩き続けるのは骨が折れるようだ。息が上がって来たようで、とうとう武田虎太は停まってしまった。


 それを無視して愛子は速度を落とさずに歩き続ける。


 「吉川、おまえ。学校で何が起こったのか、知りたくないのかよ!」


 吉川愛子の背中に向かって、虎太は大きな声で言った。愛子は一度振り返り、済まなさそうな顔を作って応えた。


 「ごめんね。その理由、今度聞くよ。急いで帰らないと母さん、待たせちゃうから。じゃあね!」


 愛子は大きな声で言って、一度だけ手を振って、相変わらずの早足で進んだ。振り返ったときに見た虎太は、きつそうにして背を折り、恨めしげな顔でこっちを見つめていた。


 大きな川があり橋の手前で岐路になっている。愛子の家は橋を渡ってまだまだ先だ。武田虎太の家は、橋のたもとを折れて川沿い歩いたその先に向かう。仮に一緒に歩いて来てたとしても、どうせ、この橋のたもとで別れることになっていた。何だか虎太の雰囲気は、愛子に着いて吉川家まで一緒に行きたいような勢いだったが、愛子としては虎太と離れることが出来てホッとした。愛子は武田虎太を別に嫌っている訳でもないのだが、家に上げる程の仲でもないし、今日は特別に、とにかく一人になりたかったし、早く家に帰って安心したい気持ちだった。


 家に帰り着くと、本当に母が居た。朝方頭痛がしていて、みんなを送り出した後検温すると熱があり、今日は職場に連絡してパートの仕事を休んだのだと言う。当然、母・智美が帰宅時間が早過ぎる、中学生の娘・愛子に理由を訊いた。愛子は、昼休みの時間帯に校内で何事か事故か事件かが起こったらしいのだが、自分は詳細は知らないとだけ答えた。母親もそれ以上は追及しなかった。母親は、午前中は薬を飲んでベッドで休んでいたらしい。午後からは家事をこなしていた。小学生の弟・和也はまだ帰って来てない。


 愛子はすぐに、二階の自分の部屋へと上がった。部屋へ入り、鞄を放り出してベッドに寝そべると、ほっと安心して気持ちが楽になった。ようやく、本当に気分が落ち着いて来た感がある。ベッドの上でごろごろしながら、いろいろと考えた。気分が落ち着いて来て改めて思うと、確かにあの白くて大きな日本犬に睨まれたときは、まるで、猛獣にでも襲い掛かって来られそうになった程の恐怖を感じて戦慄したが、実際、あのスーパードッグたちの取った行動とは、集団苛めに合って暴行を受けていた二組の後能君を救った、ということではないか。現に、あの事態の中央で、亀のように丸くなって蹲って、頭を抱えていた後能君だけは何ともなっていなく、多分無傷の筈だ。


 要するにあれは、苛められっ子の後能君が、スーパードッグたちから助けて貰ったのだ。毎回毎回、卑劣な苛め行為を多人数で行っていた不良グループの連中は、二匹スーパードッグに寄って、いわば天罰を与えられたのだ。そういうことなんじゃないのか。あの、大きい方のスーパードッグが自分を睨み付けたのは、単に 「俺たちの存在については誰にも喋るな」 という警告に過ぎない。それさえ守っていれば、あの白いスーパードッグが自分に危害を加えることはない。多分、そうだ。そうに違いない、と考えると、愛子はとても気分が楽になり、安心から、通常の落ち着いた精神状態に戻れた。


 自分を取り戻した愛子は、ベッドから飛び起きて、制服を脱いで、長袖Tシャツとジーパンに着変えた。そうすると、急に空腹を覚えた。今日は給食をろくに口にせず、大半を残した。階下に降りて、母に言って何かオヤツでも出して貰おうと、ドアに近付くと、勢いよく階段を駆け上がって来る音がした。軽やかな足運び。和也が学校から帰って来たらしい。慌ただしく隣の自分の部屋へ入ったと思ったら、すぐにまた廊下に出て、和也は、隣の愛子の部屋のドアを叩いた。


 すぐさま愛子がドアを開けて、顔を出した。 「何、どうしたの?」 部屋の前に突っ立った和也は、子供用の薄手の長袖横縞ポロシャツに半ズボン姿だ。自分の部屋には、帽子とランドセルだけ投げ置いて、飛び出して来たらしい。


 和也は何か、神妙な顔をして姉の顔を見ていた。


 「あのね、お姉ちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんだ」


 愛子は少し考える振りをして、 「入って」 と和也を促した。


 愛子は、部屋の窓際のベッドまで戻り、どーんとベッドに乗っかって胡座座りした。部屋へ入って来た和也は、愛子の前で突っ立ったままだ。


 「何処か座ったら。机の椅子でも良いよ」


 愛子は、壁際隅の勉強机を顎で指し示した。


 和也は 「いや、ここで良いよ」 と、床のカーペットの上に座り込んだ。正座こそしていないが体育座りのように床に座る和也に対して、ベッド上で胡座をかく愛子は、何だか、二人のこの体勢が、昔の時代劇に出て来る牢屋の、牢名主と下ッ派の関係のように思えて、ちょっと吹き出した。


 笑い顔になった愛子を、弟は不思議そうに見つめた。思えばここ最近は、市民公園の一連の騒動で母親ばかりでなく、愛子も和也に対して執拗にキツくあたって来ている。姉として弟・和也の身を心配してこその行為だったが、その都度、弟は萎縮していた。和也は自然と、姉を恐れるようになったのかも知れない。愛子はそう思った。


 「実はね和也。あたしもあんたに聞きたいことがあるんだ」


 愛子は真面目な顔になって話した。


 「え、何?」 和也がまたしても不思議そうな顔をして訊ねた。


 少し考えてから愛子は、和也に話を促す。


 「あ、でもいいよ、和也。あんたの話からしてよ。何なの、あたしに聞きたいことって?」


 和也は居住いを正して、おもむろに喋り始めた。


 「うーん、と。あのさ、お姉ちゃん中二でしょう。中二の同級生の中で、目立って苛められてる男子生徒って居ない?」


 愛子はドキリとした。正に、今日の昼間に目撃した、西崎ら不良グループに集団苛めされていた、二組の後能君の顔を思い浮かべた。そして、小学校三年生の弟がどうして、中学校の中で起こっている苛めの被害者のことを訊ねて来るのか、甚だ疑問に思った。


 和也は、あの市民公園近辺に出没する、大きな白い日本犬らスーパードッグに強い興味と関心を抱いている。今日の昼間は、中学校の裏手に二匹のスーパードッグが現れ、確かに、苛め被害に合っている後能君を、信じられないような神業で集団苛めから救った。いったい和也は何を知っているのだろうか?


 「どうしてそんなこと聞くの?」


 「居るの?お姉ちゃん」


 「う‥、うん」


 愛子は戸惑い、口ごもって、しばし、どう話そうかと迷った。


 「居ることは居るのよね‥。後能君て二組の男の子なんだけど‥。和也、あんた知ってるの?」


 「うん。知ってる」


 和也のはっきりした返事に愛子は少し驚いて、詳しく問い詰めた。


 「何で? どうして後能君を知ってるの?」


 通う中学校は同じだが、吉川愛子の家と後能君の住所は離れていて、小学校の校区は違っていた。和也と後能君の接点があるとは思えない。


 「名前は解らないけど、多分その生徒だと思う」


 「後能君を見たことがあるんだ?」


 愛子は続けて訊いた。 


 「その後能さんて人、背があんまり高くなくって、髪がボサボサ頭で、おとなしそうな感じで、言っちゃ悪いけど気が弱そうな人でしょ。ちょっと暗い‥」


 和也の表現する人物は正に、二組の後能のイメージそのものだった。愛子は繰り返して訊いた。


 「どうして後能君を知ってるの?」


 和也の次の言葉に愛子は驚愕した。


 「自殺しようとしてたんだ」


 愛子は驚いたまま言葉が出なかった。じっと和也の目を見つめたままだ。愛子が何も言わないので和也は続けた。


 「あのね、公園の森の中で木の枝で首吊りしようとしてロープが切れたんだ」


 和也は、中学生・後能の自殺の失敗に不思議な犬、ハチが関与していることは隠した。愛子は和也の話に驚き、しばしポカンとしていたが、テンポを遅らせて 「ええっ!」 と声をあげて驚嘆した。


 あの、西崎らに毎日集団苛めに合っていた、二組の後能君は、自殺を考えるまで悩み苦しんでいたのだ。愛子は改めて、同級生・後能のことをとても可哀想に思い、また今日の昼間の、集団苛めの現場を目撃したにもかかわらず、そのことを誰にも言わず黙っていようとした自分を恥じた。私は、自分の保身しか考えない卑劣な奴だ。そう思うと、愛子の目にじんわりと涙が出て来た。


 和也は愛子をじっと見つめていた。


 「お姉ちゃん、泣いてるの? あのお兄ちゃんのことを、可哀想に思ってるんだね。その、後能さんて、いつも苛められてたんだね? 学生服のあっちこっちにウンコが付けられてたし‥」


 「ううん、バカ。ちょっとね‥」 愛子は、涙ぐんだことを弟に隠すように下を向いて、長袖Tシャツの袖で一度、目の辺りを拭った。


 「そうなの? その、後能君が、公園の森で自殺しようとしたとき、学生服にそんなひどいことされてたんだ?」


 「うん。その後能さん、ずっと泣いてたよ‥」


 「で、後能君は、首吊りのロープが切れて助かった後はどうしたの? 泣きながら帰って行ったの?」


 「うん‥」


 和也の話を聞いてる内に、今度は西崎ら不良グループの面々に対して、怒りの感情が沸いて来た。怒りは憎悪感情に近くなり、愛子は顔を紅潮させた。


 「ねえ、いつの話、きのうの晩?」


 「そう。お姉ちゃんが僕を迎えに来るちょっと前。あのお兄ちゃんも自転車だった」


 「そうか。あたしとは擦れ違わなかったなあ」


 首吊りに失敗した後能君が自転車で帰った後、和也は、ハチやジャックが和也の差し入れのフライドチキンやハンバーガーを食べるのをじっと見ていたし、林の中でじじごろうとも少し会話をしている。姉・愛子が迎えにやって来るまでに時間差はある。二人が出会うことはなかったのだ。


 「ねえ、お姉ちゃん。その後能さんて、下の名前、後能‥何ていうの?」


 「えっ、フルネーム?」


 ベッド上の愛子の顔を見上げている和也が頷く。


 「そうだ。お姉ちゃん、あの人のこと苗字くらいしかほとんど知らない。一緒のクラスになったことないし、おとなしくて、言っちゃ悪いんだけどちょっと雰囲気暗くてさ。話すどころか全然関わりになったこともないしね」


 愛子は今日、学校の帰り道で声掛けて来た、武田虎太なら後能のことをよく知ってるかも知れない、と思った。虎太はお調子者的なところがあるが、基本、陽気で社交的だ。何て言うか、小心者のくせに妙に人付き合いが器用で顔も広いところがある。情報屋的な面を持っていて、そういう意味ではけっこうみんなの人気がある。


 「ふう~ん。でもどうして、そんな、死にたくなるくらいの苛めにあってるの?」


 「う‥、うん。それがね、悪い奴らが居てね。不良グループなんだけど、そいつらがいつも苛めてるの。ま、後能君苛めなんてくだらないことやってるのはその連中だけなんだけどさ。そいつらにはリーダーが居て、こいつがヘビみたいな嫌なヤツでね。後能君はこいつに恨みを買ってるから‥」


 そうだ! と、肝腎なことに愛子は気が付いた。明日からは当分は、後能君が苛められることはないのだ。何故なら、苛めの張本人たちは多分、ほとんどが病院行きで入院だろう。明日の新聞を見れば解るが、もしかしたら死人が出てることだってありうる。リーダーの西崎はどのくらいの怪我を負っただろうか? 多分、あのグループは西崎が居ないと結束力も行動力もなくなる。西崎が一人で動かしているようなグループだ。西崎が長期入院してれば、その間の後能君の身は安泰なのではないだろうか。


 愛子は、昼間、後能を救った二匹のスーパードッグのことを、和也に聞くことにした。あの場を離れ去る際の、白い大きな犬のひと睨みには 「このことを他言するな」 という警告の意味があった。しかし多分、弟・和也はあの二匹のスーパードッグのことを何か知っている。だからこそ弟は、あんなにも公園の森に行きたがるのだ。


 この前逮捕された、連続通り魔犯の男も警察の取り調べの中で、何か野犬の話をしていたということだったし。でもこれはその後、警察の大掛かりな市民公園内の、山狩り的な捜索で野犬などは一匹も出て来なかった、という結果だったらしい。もとより市内はいつでも、保健所の車がパトロールしていて野犬や野良猫を捕獲駆除して回っている。あのスーパードッグらに関しては不思議なことばかりだが、多分、弟・和也は、私や母親に隠していることがある。そうに違いない。愛子はそう確信して、無意識にじっと和也を睨んだ。その迫力に思わず、和也は萎縮する。


 和也の緊張した面持ちを見て、愛子は意識して態度を弛め、ことさら穏やかに言った。


 「じゃあ、今度はお姉ちゃんの聞きたいことね。和也。あんたさあ、あの犬のこと、何か知ってるでしょ?」


 「えっ!」 和也は驚いて声を上げてしまった。まさか、そんなことを訊いてくるとは思いもしなかった。和也は困ったような顔をしながら、口ごもった。


 和也の態度を見て愛子は、ひょっとしたら和也もあの白い大きな犬に警告を受けてるのではなかろうか? と考えた。愛子は決心した。スーパードッグには威嚇的に 「他言無用」 の警告を受けたけれど、その為、誰にも喋らないつもりでいたけれど、この弟だけには話してみよう、と。


 今日、学校で見たことを和也に話して聞かせれば、和也もまた、私の知らないあの犬たちに関することを、心を開いて話してくれる筈だ。和也が黙ったままなので愛子は話を続けた。


 「もうだいぶ前だけどさあ、私たち、市民公園からの帰り道で白い大きな犬に助けられたでしょ。何かあの犬さん、確かに大きな犬だったけど刃物持った通り魔、前にして余裕だったよね。それからあんた、いつか、もしかしたらあの犬は想像以上にもっともっと強いかも知れないって、そんなこと言ってたよね。それと、最初に、野球の練習のときに公園の森の際で、裸のお爺さんの幽霊と一緒に居る小さな犬を見た、って言ってたでしょ。和也。ねえ、その犬ってもしかしたら、小さいって言っても中型犬に近いくらいの大きさで、茶色い洋犬タイプの賢そうな犬じゃないの?」


 愛子が一気に喋り、最後の問い掛けに、和也は驚いてドギマギし、顔色が変わった。和也は思った。姉・愛子は、自分と一緒にジャックさんは見ている。でも今の話では、ハチさんのことも知っている。どうしようか? 和也は困ってしまった。 「ワシたちのことは誰にも喋らんでくれ」 そうじじごろうさんから言われ、和也は約束した。姉に、ジャックさんやハチさんのことを話せば約束を破ることになる。和也が困り果てた面持ちで下を向いて、何だかモジモジして落ち着かないでいるので、思い切って愛子が喋った。


 「今日学校でね、あたし、あの犬たちに会ったの。和也、あんた口止めされてんでしょ? 実はね、あたしも口止めされたわ。犬さんから直接、言葉で言われた訳じゃないけど、脅された。あたしには解ったの。自分たちのことは決して誰にも話すな、って言ってるんだって」


 和也は、両目を思い切り見開いて、あんぐり口を開けて驚き顔になった。


 「ハチさんジャックさん、お姉ちゃんの学校に現れたんだ! どうして? ねえ、口止めされたって、あの犬たちを見たのはお姉ちゃんだけだったの?」


 「ちょっと待って、和也。あの犬たちには名前があるの? ハチとかジャックとかいう名前なの? 誰が着けた名前? それをどうしてあんたは知ってるの?」


 畳み掛けるように次々質問をして来る姉に、和也は思わず萎縮する。黙ってしまった和也に愛子は謝った。


 「あ、ごめん。つい興奮しちゃって。だって、あの二匹の犬は普通の犬じゃないんだもの。そう、本当に10メートルくらいの高さでも、嘘みたいにフワッてジャンプしちゃうんだもの。あの犬たちはねえ、スーパードッグだよ」


 「スーパードッグ‥」


 和也は鸚鵡返しに一言口にしただけだ。


 「そう、スーパードッグ。あのね、和也にはもう全部話すよ。和也はあのスーパードッグたちのことをよく知ってるみたいだしさ。実は今日の昼間、その苛められっ子の後能君がまた苛められてたの。西崎たち不良グループに学校の裏手に連れて来られてね。たまたまだけどね、偶然あたしは目撃してたの」


 愛子は、今日の昼間、学校で目撃した“事件”を和也に詳しく話し始めた。




 

 ※ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(10)へ続く。●小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(10) - Kenの漫画読み日記。




 

 

◆(2012-01/01)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(1)
◆(2012-01/19)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(2)
◆(2012-01/26)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(3)
◆(2012-02/06)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(4)
◆(2012-02/10)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(5)
◆(2012-03/02)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(6)
◆(2012-04/02)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(7)
◆(2012-04/25)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(8)
◆(2012-06/01)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(9)
◆(2012-06/16)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(10)
◆(2012-07/06)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(11)
◆(2012-08/04)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 長いプロローグ..(12)